データ活用推進のための体制づくりと基盤の整備方法
企業がデータ活用を本格的に推進するためには、適切な体制づくりと基盤整備が不可欠です。単にデータ分析ツールを導入するだけでは十分ではなく、全社を挙げた取り組みが求められます。ここでは、データ活用を効果的に進めるための体制づくりと基盤整備の具体的な方法について説明します。
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「データ活用グループ」を立ち上げる
データ活用を効果的に推進するには、専門の部署「データ活用グループ」を設置することをおすすめします。
新たな取組の場合はどうしても兼任で対応することが多いと思います。兼任でのチーム編成でも構いませんが、他の仕事と並行して行う場合は会社として十分なリソース確保(人員確保)と、適切な権限と予算を与える必要があります。
なぜなら、新たな取り組みのため、担当者の人的リソースやパワーが必要になります。また、「人材投資を行ないデータ活用を推進する」という社内向けへの意思表明にもなるからです。
我々のクライアント様でも2〜5名程度のチームを組まれている会社様が多く、我々としては少なくとも2名以上(社内に精通しているマネージャーと実務担当者)のチームを作ることをおすすめしています。
「データグループを立ち上げたが機能しない」といったことを防ぐためにも、経営層からの強力なバックアップが必要不可欠です。
データ活用専門チームの役割は?
データグループには以下の4つの主な役割があります。
1. データガバナンスの策定と運用
企業がデータを安全かつ効率的に活用できるよう、データガバナンスに関する方針やルールを策定し、運用を担当します。データの質と一貫性を確保し、セキュリティリスクを適切に管理する枠組みを構築します
2. 社内のデータリテラシー向上のための教育
データ活用を全社的に浸透させるため、従業員に対するデータリテラシー教育を企画・実施します。データの取り扱いや統計の基礎知識、データ分析ツールの使い方など、レベルに応じた研修を用意することが重要です。
まずはデータを蓄積することから始めるため、データ蓄積に従業員の協力が必要であれば、新しいツール導入の研修から始めつつ、データ活用ができる環境を整えていきましょう。
3. データ分析の基盤となるITインフラの整備と運用
データ分析に必要なITインフラを整備し、適切に運用します。データ収集・統合のための基盤、分析ツール、クラウドサービスなどを用意し、セキュリティを確保しつつ、効率的な利用を可能にします。要望やセキュリティ面を考慮し最初からエンタープライズなインフラを整備することもよいですが、「まずは社内にあるエクセルデータを活用したい」といったことであれば「Googleスプレッドシート」などの手軽に使えるツールから始めてみることも良いかと思います。
4. 各部門のデータ活用プロジェクトの支援
各部門でのデータ活用プロジェクトに対し、「どの目的(Pourpose)で、誰が(Who)、どのデータ(What)を、いつ(When)、どこで(Where)、どのように(How)活用するのか」といった活用のアドバイスや、ツールの使い方などの技術的なアドバイス、その他高度な分析が必要であれば分析支援を行います。ニーズに合わせてデータソースを用意したり、分析手法をアドバイスしたりと、プロジェクトの遂行を後押しします。
なお、データグループの人員構成は慎重に検討する必要があります。データサイエンティストはもちろん重要ですが、ビジネスの実務経験があり、現場のニーズを理解できる人材も欠かせません。データとビジネスの架け橋となる人物の存在が、データ活用の成否を大きく左右します。
データグループの編成は?
データグループには、これらの役割を果たせる高い専門性が求められます。データサイエンティスト、ビッグデータエンジニア、ITアーキテクトなどの人材を集める必要があります。プロジェクトベースでの運営も可能ですが、全社的な推進体制を作るには、専任の部門を立ち上げることが理想的です。
データグループの編成例を以下に示します。
1. データガバナンス担当
データガバナンス規程の策定と運用、データ品質管理、セキュリティ対策などを担当。
2. データリテラシー教育担当
データリテラシー研修の企画・実施、eラーニングコンテンツの作成、社内への普及活動などを担当。
3. データ基盤整備・運用担当
データレイクやデータウェアハウスなどの基盤構築、クラウドリソースの管理、インフラ運用監視などを担当。
4. データ分析支援担当
各部門からの分析依頼への対応、データソースの準備、モデル構築の支援、分析結果の解釈アドバイスなどを担当。
ただし、多くの企業様が新たな取り組みとなるため、外部からの採用か社員教育を検討されることが多いと思います。すべてのメンバーが外部採用の場合、全社とのコミュニケーションがなかなかうまく行かず失敗するケースも多いため、なるべく社内で適性のあるメンバーを集め、できる範囲で少しずつ取り組み始めるということが重要です。
データガバナンスの重要性
データ活用を安全かつ効率的に行うためには、データガバナンスの構築が欠かせません。データガバナンスとは、データの質と一貫性を確保し、セキュリティリスクを適切に管理するための枠組みです。
(参考)データガバナンスの定義 データ ガバナンスは、データが安全で、公開されず、正確で、利用可能であることを保証するために行われるすべてのことを指します。これには、人々が取らなければならない行動、人々が従わなければならないプロセス、データ ライフサイクル全体にわたり人々をサポートするテクノロジーなどがあります。
データガバナンスを軽視すると、データ活用における様々なリスクが顕在化します。個人情報の漏洩、不正確なデータに基づく誤った意思決定、部門間での無駄なデータ重複など、深刻な問題に発展する可能性があります。
取り組み範囲が多岐に渡るため、腰が重くなりがちですが、一定の人的リソース確保を行い「整備する」ことが重要となります。
データガバナンスの内容
データガバナンスが実現する内容は以下の3点です。
1. データの信頼性と整合性の確保
データの定義、形式、更新ルールなどを統一し、データの品質を高めます。部門間でデータの解釈に違いが生じないよう、整合性を保ちます。
2. データ活用に伴うリスクの最小化
不適切なデータ取り扱いによる情報漏えいなどのリスクを特定し、対策を講じることでリスクを低減します。AIガバナンスなども含まれます。
3. データ活用の効率化と最適化
重複したデータ管理を避け、適切なデータ利用ルールを設けることで、データ活用の効率化を図ります。また、経営にとって重要なデータに優先的に注力するなど、活用を最適化することも可能です。
データガバナンスの社内浸透に向けた4つの施策
データガバナンスを全社的に徹底するには、以下の4つの施策が有効です。
1. 経営層からの明確な方針提示
経営層が戦略的にデータ活用を推進する姿勢を明確に示し、データガバナンスの重要性を社内にアピールすることが不可欠です。トップダウンにより、全社としての意思を従業員に明確に伝えるため、全社会議などで経営層の口から活用推進のビジョンを提示することが重要です。
2. データガバナンス規程の整備と周知徹底
データの定義、取り扱いルール、セキュリティポリシーなどを文書化し、全従業員へ周知徹底する必要があります。研修やeラーニングを活用し、理解を促すことが大切です。
なお、ガバナンス規程を作っても従業員に浸透しなければ意味がありません。地道な取り組みですが、経営層自らがガバナンスの重要性を訴え、従業員に実践を促すことが不可欠となります。
3. 事例共有によるベストプラクティスの横展開
データガバナンスに関する優れた取り組み事例を社内で共有し、成功事例を他部門へ横展開させることで、ガバナンス体制を強化することが可能です。
なお、優れた事例を共有するだけでなく、失敗事例からの教訓も社内で共有することが重要です。うまくいかなかった原因を分析し、同じミスを繰り返さないよう学ぶ姿勢が不可欠です。
4. データ活用への貢献を評価するインセンティブ制度
データの適切な取り扱いやデータ活用への貢献を、人事評価に反映させるなどのインセンティブを設けることで、従業員のガバナンス意識を高められます。単にガバナンスを押し付けるのではなく、従業員に対してインセンティブを与えることが重要です。
最初は新しい取り組みのため、なかなか従業員のモチベーションが上がらないのが一般的です。そのため、これも予算の一つとしてデータ活用への貢献を適切に評価し、個人評価や報酬に反映させることで、従業員のモチベーションを高めることができます。
こうした体制づくりと基盤整備を行うことで、企業はデータ活用を安全に加速し、事業にデータを最大限活かすことができるでしょう。全社を挙げて取り組むことが何より重要です。
データ活用は一朝一夕には進みません。中長期的な視点に立ち、着実に基盤を整備しながら、トップダウンとボトムアップの双方からデータ活用文化の浸透を図ることが肝心です。会社全体の意識改革や業務内容の変革には時間を要しますが、その過程を丁寧に対応することで、データ活用を会社に浸透していきましょう。
データ活用を進めるためには
このようにデータ活用を進めるためには、人材確保、ガバナンス整備など様々な取り組みが必要になってきます。弊社では立上げ時の人的リソースサポートや、進行サポート、ガバナンス整備など一貫してご支援可能です。
データ活用に関してお困りのことがございましたらお気軽にお問合せください。